2021/03/01(月) ゆがみ 逆手にとるとは

  今回は、2021年2月2日(火)の朝日新聞夕刊の記事からお話を始めます。(こともあろうに新聞を濡らしてしまい、しわだらけになってしまいました。すみません)さて、この作品は「雲錦大鉢」という名前で、作者はかの有名な、北大路魯山人先生。現在、世田谷美術館に所蔵されているそうです。


 紅葉の図柄が美しい器ですが、よく見ると器の左右の端に、欠けた部分を補修した跡がありますね。それだけでなく、なんと器そのものがとても大きくゆがんでいます。とんでもない器ですね。しかしながら、欠けたりゆがんだりといった、いわゆる「失敗作」に対して魯山人は面白がったのですね。価値を見つけたのです。大胆な発想で逆に生かしたのです。欠けは「金継ぎ」という手法で見事修正し、良いアクセントとしました。ゆがみによって生まれた面に、ゆがみがなければ描くことができない、堂々とした幹を描き、華々しく紅葉を散らし、作品の価値を一気に高めることに成功したのです。

 欠けやゆがみを逆手に取り、良いもの、美しいもの、として価値を見出す。これは私たち人間の「いかに生きるか」という問いに対するひとつの答えなのかもしれません。もしかしたら魯山人から見て、彼の周りの人々について、どの人も「欠けやゆがみ」だらけに見えたのではないかと想像してみます。で、そんな「欠けやゆがみ」も、活かして用いることができたら、価値のある作品ができる、すなわち、「欠けやゆがみ」も、活かして用いることができたら価値のある人生を歩むことができるかもしれませんよと、魯山人は悟ってこの作品を作ったと考えたら楽しいですね。

 例えば、私自身についても「書きもの」だけの出会いの方ならば、とても立派そうにお感じになられるかもしれませんが、実際に会うと、「しどろもどろで頼りないくせに空気が読めずに自分勝手、、、」そんなタイプの人間ということがよくわかると思います。でも、園長をはじめとして、スタッフの皆さまのおかげで、恐れ多くもこうして何とかこの席に座らせていただいているわけで、みなさん本当にありがとうございます。(申し訳ありませんがもう少し我慢していてくださいね)

 毎日たくさんのお子さまと過ごしている日々ですが、お子さまの表の姿だけでなく、時に裏を見せる姿についても「面白い!」と感じる心があればいいなと思います。コロナ禍、人の心は過敏になり傷つけあうことが多くなることが想像されますが、そんな時、魯山人の心に思いをはせることができたらいいなと思います。「あれ!濡れた新聞のしわこそが、むしろ作品をより引き立てていて、美しい・・・」

 2020年度、元郷園、東領家園、朝日園をご利用いただきましてありがとうございました。

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